先生を変えることは裏切りですか?
レッスンを受けている人の中には、「ほかの先生のところに行くのは失礼ではないか」「今の先生に悪い気がする」と感じる方が少なくありません。
とてもまじめで、誠実な感覚だと思います。けれど、その気持ちが強すぎると、自分の可能性を広げる機会まで閉じてしまうことがあります。
学ぶということは、本来もっと自由なものです。誰かを裏切ることではなく、自分に合う方法や環境を探していくことでもあります。
「ここを離れたら申し訳ない」
その感覚は、事実ではなく思い込みかもしれません。
人はみな、ある程度の思い込みの中で生きています。心理学では、自分を実際より少し前向きに捉える傾向を「ポジティブイリュージョン」と呼ぶことがあります。根拠はなくても、「自分はきっと大丈夫」「なんとかなる」と思える感覚です。
これは一見、非合理に見えるかもしれません。しかし、そうした少し都合のよい見方があるからこそ、人は失敗しても立ち直り、自分の未熟さを抱えながら前へ進むことができます。
つまり、思い込みそのものが悪いわけではないのです。むしろ、人を支える思い込みもあります。
ただ一方で、人を止めてしまう思い込みもあります。
たとえば、「今いる場所で頑張り続けることが正しい」「ほかを見たら中途半端になる」「別の先生のレッスンを受けたら不義理になる」といったものです。
こうした考え方は、誠実さのように見えて、実は自分を狭い世界に閉じ込めてしまうことがあります。
同じ場所で頑張ることは、必ずしも最短ルートではない
もちろん、ひとつの場所で継続して学ぶことには大きな意味があります。信頼関係ができ、自分の変化を見てもらいやすくなり、課題にもじっくり向き合えます。
けれども、同じ環境の中だけで努力を重ねていると、その場所の価値観や教え方が「唯一の正解」に見えてしまうことがあります。
その状態が長く続くと、視野は少しずつ狭くなっていきます。自分では前に進んでいるつもりでも、実は同じ枠の中で動いているだけ、ということもあるのです。
深めることは大切です。ですが、探索しないまま深め続けると、伸びしろの入り口そのものを見失うことがあります。
飛躍は、今いる場所の延長線上だけで起こるとは限りません。
むしろ「外に出たこと」がきっかけになることもあります。
実際、別の先生のひと言で急に腑に落ちることがあります。今まで何度も言われてきたことなのに、表現が変わっただけで理解できることもあります。レッスンの進め方、重視するポイント、空気感、相性。そうした違いによって、眠っていた感覚が急に動き出すことは珍しくありません。
これは、前の先生がだめだったという話ではありません。たまたまそのタイミングの自分に、別の角度からの刺激が必要だったというだけです。
「合う場所」は、一度ではわからない
学びの環境との相性は、入った瞬間に完璧にわかるものではありません。続けてみてわかることもあれば、比較して初めて見えてくることもあります。
だからこそ、「一度選んだのだから最後までそこにいるべきだ」と思い込まなくて大丈夫です。
環境を変えることは、逃げではありません。甘えでもありません。今の自分に必要な刺激や視点を探しに行く行動です。
むしろ、本当に伸びる人は、今いる場所に感謝しながらも、その場所だけに自分の可能性を預けきらないことがあります。受け身ではなく、自分で学びを選び取りにいくのです。
自分を支える思い込みと、自分を止める思い込み
大切なのは、思い込みを全部なくそうとすることではありません。
「自分はまだ伸びるかもしれない」「今からでも変われるかもしれない」――そういう思い込みは、あなたを前に進ませてくれる力になります。
けれど、「ここ以外に行ってはいけない」「先生を変えたら裏切りだ」といった思い込みは、あなたの動きを止めてしまいます。
この二つは、似ているようでまったく違います。
人を救う思い込みもある。
でも、人を止める思い込みもある。
もし今、どこかで伸び悩んでいるなら、自分に問いかけてみてください。
「私は、本当にここで学び続けたいのだろうか」
「それとも、“離れてはいけない”と思い込んでいるだけだろうか」
答えはすぐに出なくてもかまいません。ただ、その問いを持つこと自体が、すでに小さなゴーアウトです。
今いる世界の外に出ることは、裏切りではありません。自分の可能性に会いに行くことです。
そしてときには、その一歩が、思っていた以上の飛躍につながることもあるのです。